第10章 Jeremiah8:4
視線を感じた。
振り向くと、会場の出口で雅紀さんと若い男が俺のこと見てる。
じっと俺の頭の中まで見通すような視線。
若い男は俺のこと殺しそうな顔で見てる。
ぞっとした。
ざらりとしたもので、皮膚を撫でられたような不快感が足元から這い上ってくる。
もしかして……?
気がついたら、二人の姿は出口から消えていた。
入れ替わるように担架が会場に運ばれてきた。
バタバタと走りまわる音を聞きながら、冷や汗が背中に流れ落ちるのを感じた。
あの二人の姿が見えなくなってるのに、まだ身体から力が抜けなかった。
拳を握りしめ過ぎて、爪が食い込んでいる。
それでも握りしめるのをやめることができなかった。
「兄さん!」
背中を叩かれて、やっと息が吐き出せた。
「どうしたの!?」
妹と弟がすぐ傍に居た。
「あ、ああ…」
「人が倒れたの?」
「病気?」
「…そうみたいだ。心配するな。父さんが治療してるから」
そう言うと、弟は満面の笑みを浮かべた。
「そっか!なら大丈夫だね」
「控室はあの人の治療に使うから、しばらく戻れないみたいだぞ」
「今日はここのホテルに泊まるから、部屋を取ってあるから大丈夫だよ!」
「なら今日は父さんも母さんも忙しいから、ご飯を食べたら部屋に戻ってろ」
「でもまだ始まったばかりだよ…?」
弟が不服そうな顔をしているから、妹に耳打ちした。
「あの人いけないみたいだから…警察も来るだろうし、父さんも母さんも戻ってこれないかもしれないから、飯を食ったら修と一緒に部屋に居たほうがいい」
病院以外の場所で人が死ぬということは、結構厄介で。
どんな状況であろうと警察が捜査をしなければならない。
医者だらけのこの状況だから、多少は変わってくるだろうけど。
でも形式的にも、後で警察が来るはずだ。