第1章 始業式
「すまないな、こんな情けない姿で」
「良いって、効率が落ちたままでは意味がないし。文次郎にはいつも稽古してもらってるから、お互い様だ」
彼は肩に掛かる羽織に目を向けた。
「これ、お前の香りがするんだが」
「ちゃんと毎日洗っているんだけど」
「良い香りだと言っているんだ、バカタレ」
眠そうな声だ、呂律も回っていない。
「さ、もう寝よう。安心してお休み」
「・・・・・・助かった、ありがとう。俺は今戻ったら仙蔵を起こすからここで寝る。お前ももうくノ一教室の門閉まってるだろ、ここで寝たらどうだ」
門は閉まっているが出入りは自由だし、私は一人部屋だから今戻っても問題はない。
ただ、文次郎の珍しい優しさに心が温まった。私は彼の気遣いに甘えることにした。
「ありがと、そうする」
私はもう寝息をたてている文次郎の横にそっと横たわった。
忍たまは長袖だがくノたまは半袖で、床が冷たい。
私は文次郎に貸してしまった上着の中に潜り込みたくて、彼にぴったりくっついた。
暖かい体温、ゆっくりと脈打つ彼の心音。
私もすぐに眠りについた。