第4章 𝕂𝕒𝕝𝕒𝕟𝕔𝕙𝕠𝕖 𝕦𝕟𝕚𝕗𝕝𝕠𝕣𝕒
さっきの人と同じ野太い怒鳴り声が耳に響いたと思えば目の先から水の塊のような物体が飛んでくる
それは勝己くんの方へと集中していて
彼は咄嗟に両手を身構えて爆破で迎え撃とうとしていた
「ッおい、 ひかり!」
私は考える間もなく勝己くんの背中を押した
こんなところで乱闘にでもなれば勝己くんの嫌な噂が本当になってしまう。例え向こうから仕掛けたとしても、だ
こんなに人が見ているところで彼を悪者にはさせない
彼の背中を押して、目線を再び上げる頃には透明な凶器はすぐそこまで迫っていた
避けるには間に合わないと思った時
目の前の水はパキパキと音を立てて、落下し粉々になる
私は息を呑む、水が上から落ちれば粉々になどはならない
水は凍りついて個体へと変わった
「個性で他人を攻撃しちゃいけねぇなんて
小学生でも分かるぞ、アンタ習わなかったのか」
何個も浮かんでいた水の塊は全て地面に個体となって木っ端微塵化していた。右手を振り上げた轟くんはいつもより目を鋭くさせ少し怒っているように見える
「実力行使に出るなんざどっちがヴィランか分からねぇな」
轟くんの冷えた声はその場を凍らせるのに十分だった
誰も動かず、誰も声を発しない
しいていうなら勝己くんが小さく舌打ちしただけだった
個性を打ってきた男の人も、首を下げ体を震わせている
轟くんの射るような眼差しは一周したあと、ゆっくり私へと降り注いだ
「 秋月 一緒に帰らねぇか」
轟くんは首を傾けさせ、その前髪を揺らす
周囲の空気は一変し多分その場にいた大半が思ったはず
(((((((今言う?!!))))))))
私は頷くことも言葉を発することも出来なくて
ただただ彼からの視線を見つめ返して驚いていた
轟くんから一緒に帰ろう、って言ってくれた
その事実に心が揺れて夢心地な気分に浸かっていた
轟くんの声のトーンは先程までより柔らかいけれど表情は険しくどこか不満気に見える。断る気など微塵もなかったけれど断ったら今度こそ嫌われそうな気がして私は小さく首を縦に振った
轟くんは私が頷いたのを確認するなり
私の手を掬い取り、その場を後にした