第2章 ℍ𝕒𝕣𝕕𝕖𝕟𝕓𝕖𝕣𝕘𝕚𝕒
私はその整った顔立ちと顔を合わせ続けるのに決まりの悪さを感じ、俯きがちになる。それから彼の質問の応えようと口を開く。胸の奥から喉にかけて重く、ドロドロとしたものが込み上げてきてるみたいだった
『…私明後日からあの雄英高校に通うんです。
ヒーロー科に合格して、私…少し浮かれてた
一度何かをやり遂げただけで他のことも案外上手くいくかもしれないって…』
不安の底でどこか自分に余裕を持っていたのかもしれない
『自分じゃ何もできなくて、それで貴方に助けてもらって…
…結局あの頃から何も変わってない』
悔しい、情けない…
思っても思ってもしょうがないことだって分かってる
彼に言って私が変わるわけじゃないし、彼が変えてくれるわけでもない
…わかってるのに
唇を強く噛み締めて、目に集中する熱い液体を溢さないように堪えた
「…余計な世話かもしんねぇが」
「アンタ、ヒーローに向いてねぇぞ」
放たれた一言に涙は引っ込み、変な声を出しそうになる
期待していなかったと言えば嘘になるけど
慰めが欲しかったわけじゃない
ただそうハッキリと私に向けられた言葉になんとも言えない気持ちが湧いてくる。暫くの沈黙のあと彼は続きの言葉を紡いでいく
「ハッキリ言わせてもらうがオレはアンタに助けてもらいたいとは思わないな。誰でもなりてぇからってなれるようなもんじゃねぇだろ」
一言一言に体がビクッと反応するのが分かる
多分それはヒーロー志望者にとって一番手厳しいことかもしれない
無意識にぶら下げていた手のひらに力を込める
「向いてねぇとは言ったが、止めろとは言ってねぇ
他に用がねぇなら行く」
小さく息を吐き、反射的に顔を上げる。上げた時には横断歩道一つ分の距離ができていて、背を向けられてることが痛々しく感じる
声をかけようにも言葉が詰まる
当たり前だけど手を伸ばしてみても届かない
視界から遠ざかる背を見つめているだけ
啓悟くんの時みたいに
…また私は
何も言えないまま背中を眺めてる