第2章 ℍ𝕒𝕣𝕕𝕖𝕟𝕓𝕖𝕣𝕘𝕚𝕒
凛としていて芯がある声が耳に響く
全く知らない人の声なのに、私にかけてるかも曖昧なのに足は勝手に止まって、声の方に引き寄せられるように振り向く
「……そんな大胆な格好で逃れようなんざ
とても正気な奴の取る行動とは思えねぇな」
もう一度聞こえたその声でようやく私の両目は彼を捉えた
端正な顔立ち、紅白髪が特徴的な男の子だった
ドキドキと鼓動が早くなっていくのは
彼がきっとただの通りすがりではない、と直感したから
予感は見事に的中した
彼は右足を大きく踏み出し、そこから瞬く間に氷の道を作り出した。白く光を反射する塊はあっという間に盗っ人の乗るバイクを凍らせ動きを強制的に抑えつけた
余りにも呆気なく全て解決し私は拍子抜けしてしまった。私がポカーンとしてる間に周りの人が歓喜の声を彼に浴びせていた
どうやら被害にあったのは私だけでなく、何人もの人があの人に盗られていたらしい
盗っ人犯はその後やって来た警官に連れて行かれる
周りの目なんて気にする余裕はなく私はその場に膝から崩れ落ちた。今になって全速力を出した疲労が押し寄せたのもあるし
何より手も足も出なかった相手を、簡単に捕まえた彼と自分との差に痛感していた……啓悟くんに合わせる顔ないよ
「これアンタのだよな?」
顔を上に上げる前に声の主が先程の彼だと気付いてしまう。歪めた顔に無理にでも笑顔を付け足し、情けない顔のまま上げる
彼が手に掲げているポーチはまさしく私ので手を伸ばして受け取る。お礼言わないと…無気力な口を必死に動かす
『助けてくれてありがとう…
これ中に…大切なものがはいってて助かりました』
ちゃんと、笑えているだろうか
でも多分私の固い笑顔に不信を抱いたのか再び手を差し出してくれる
「一人じゃ起き上がれねぇなら手ぇ貸すぞ」
そこで初めて自分が地べたに座りっぱなしなのに気付いた。慌てて手を取り立ち上がる
『…こんなんでヒーロー志望なんて笑っちゃいますよね…』
自分に向けた皮肉に何故か彼がピクッと肩を揺らした
「…アンタヒーロー志望なのか」
急に私に向けてる眼差しが鋭くなった気がする
よく見れば…この人…両目とも色が違う
気を抜くと吸い込まれるくらい優美なオッドアイに捕まってしまいそう