第7章 𝔸𝕟𝕖𝕞𝕠𝕟𝕖
『あの…大丈夫ですか…』
声をかけるとその子は顔を上げる
知らない制服に垂れてる大きな瞳に、ロングのストレートな艶かかったな黒髪
…綺麗な人
「あ…すみませ…ちょっと気持ち悪くて…」
話によるといつもは酔い止めを飲んでるらしいのだけど今日に限って飲み忘れてしまったそうだ
私達三人は次の駅で降りて、轟くんは酔い止めを買いに、私はその子に付き添っていた
「本当にすみません…時間大丈夫ですか…?」
『大丈夫です!逆にいつもより早いくらいなので』
「…優しいんですね、あの彼は彼氏さんですか?」
背中を擦る手が一瞬止まりかける
そう見られたことが嬉しくも感じる気持ちもあって、かたやもどかしくもあり複雑な感じ
『違いますよ』
「そうなんですね…お似合いだと思うのに」
蒼白した顔でボソッとそう呟いた彼女が轟くんに恋をしたことを知るのはまだだいぶ先の話で
轟くんが戻ってきてからしばらくして私達は別れて、再び乗車する
「やば〜〜緊張する〜〜」
A組の控え室はひとしきりにザワついていて様々な声が遠く近くで交差してる
私のように緊張してる人もいれば、自分を高めようと一切声を上げない人もいた
「 ひかりちゃん頑張ろうね…!!」
お茶子ちゃんの声から強い緊迫と興奮を感じる
私はその言葉に深く頷いた
気圧されたように息を吸い込んでいると
「あら、 ひかりちゃんスマホが鳴ってるわよ」
梅雨ちゃんの声に長テーブルに置かれてる自分のスマホがブルブル小刻みに震えてるのに目が行く
スマホを手にして『ありがと、出るねっ』とだけ伝えて控え室を後にする
着信元は啓悟くんだった
一瞬出るのに躊躇してしまう
こんなときになんだろ…
スワイプして画面を耳元に当てて対応する
「もしもしー ひかりちゃんー?」
『私これから体育祭なんですが』
「だからかけたんだよ」
電話越しに風を切る音が漏れ聞こえてくる
彼がどこから通話してるのがわかってしまう
「昨日見事に良い忘れちゃったからさ
頑張ってね、それだけ」
『…ありがとう』
なんだか照れくさくなって、その場で小さくしゃがみ込む
太鼓のように胸を打つ鼓動は体育祭があるという理由だけじゃない
『…観に来てくれないの…?』