第26章 女の陰陽師
「あの女の正体はあなたもご存知でしょう?」
「……」
帝は何か心当たりがあるようで黙った
「いつから分かっていた?」
「最初からですよ……初めて女に会った時にしないはずの匂いがしたんです、あれは異国から出ている香水というものですね、あなたからも匂いがしました」
「なるほど」
「香水は滅多に手に入らないものです、手に入れられるとするならそれなりに身分が高い人物……つまり帝の一族かと思ったんです」
「はは、まさかそこまで分かるとは……」
「私の知り合いに異国に渡った人が居ましてね、その人から話を聞いたんです、香水は恋仲同士でつけあうと……女の正体は帝の“愛人”ですね?」
「嗚呼、そうだ」
(まさか帝の愛人が正体だとは思わなかったな)
「……女の正体はかつて私が愛した咲という者だ、その頃の私は今より自由な身であちこちを歩き回った……そして咲と出会った、だが私にも立場があって咲とは離れ離れになってしまった」
(突然語りだした……)
「そして痺れを切らした咲さんが羅生門に来たと」
「私にも分からないことがある……何故羅生門なのだ?現れるとするなら私の前だろう」
「理由はひとつしかありません」
「何だ?」
「それは咲さんが“既に死んでいる”ということになります、理由としては帝を守る為に張った結界です、範囲は都一帯……つまり羅生門までが結界の範囲なのです」
「そうか……咲はもう……」
帝は俯いて悲しそうな顔をした
無理もない、大切な人が既に死んでいるのだ
気持ちが落ち着いたようで顔をあげた
「君に頼みたいことがある」
「何なりと」
「咲を……どうか救ってほしい」
「了解しました」