第2章 夏休みです
眼下に広がるのは高専の敷地
人ではないモノたちの気配が強まっている
鬱蒼と木々が茂り、全てを飲み込むような黒が広がる
「あれ、もしかして高いとこ怖えの?」
「…違う。暗いのが、いや」
どこまでも、落ちてしまいそうで
「ふっ、お前ほんと向いてねえよ」
「…でも、綺麗。都会でもこんなに星が見えるなんて」
「夢、叶ったか?」
「うん。すごい、ハウルみたい」
ぐん、と悟が高く飛んだ
強い風が吹いて、思わず悟の手を握りしめる
「大丈夫、大人しくしてたら落とさねえから」
「見方によっては脅迫ですが???そこは絶対って言ってほしい。」
夜の闇の中で、月光を受けた白い髪と、星のような青い瞳が輝いているさまはどこまでも幻想的だった。
同時に、今この瞬間、自分の生死を目の前の人間ひとりに握られていることに、うそ寒いような気持ちにもなった。
「どうしてこんな、飛ぶなんて」
「…お前が、乗り気で夏祭り行くって言ってくれた礼」
「そんなこと…」
思いがけない理由に、笑みが溢れた
「悟」
「ん?」
「今日、楽しかったね」
「おう」
ふたりで屋上の縁に腰掛け、寝転がる
「悟」
「ん」
あたしがゆっくりと悟の目を覆うと、意外なほどおとなしく瞼が伏せられた
肌を滑るぬるい風の匂いと、少しずつ夏に別れを告げる虫の音、
落ちないようにとゆるく繋いだ手の感触
今はただそれだけを感じていたい
「夏休み中、一緒に何回か任務に行ったじゃん」
「全部俺が祓ったけどな」
「その時ね、悟のこと神様みたいって思った」
死と隣り合わせの闇の中で、その存在全てが常に他の者達とあまりにも『違って』いた
こんなこと言うのは烏滸がましいかもしれないけど、
人はみんな違って当たり前なのに
初めてその違いを、痛々しく思ったよ
「俺、つえーもん」
「でもその神様は今日、お祭りで屋台の焼きそば頬張ってバカみたいにはしゃいで笑って、口開けてバカみたいな寝顔してた」
「落とされたいの?」
「勘弁して。あたし、それが嬉しかった。」