第2章 余命宣告
「大変…申し上げにくいのですが…」
医者は目の前にいる少女・如月八雲から目を逸らしながら言った。
「如月さんはもって1年かと…。」
急に聞かされた命のタイムリミット。普通なら泣いたり取り乱したりするのだろうが、彼女は笑っていた。
医者も看護師も彼女の表情に驚き困惑した。そんな彼らを残し八雲は病室を出た。
ついさっき、余命宣告を受けた人間とは思えない軽い足取りで彼女は病院をあとにした。
「かぁぁぁんちゃぁぁぁぁん!!」
家に帰るなり、八雲は誰かの名前を大声で呼ぶと、どたどたと広い屋敷を走り回り始めた。
八雲は1つの部屋の前に止まると勢いよく襖を開けた。
薄暗い部屋で布団がもぞもぞと動いた。
八雲に呼ばれた男・如月神無は布団から眠そうな顔を見せるとじとりと彼女を睨んだ。
「朝からうるさいぞ八雲。」
「東京行こ!!あと、もうお昼だから。」
八雲は満面の笑みを浮かべそう言った。それを聞いて神無は八雲に背を向けるようにしてまた布団に潜った。
「え?!起きてよ〜!!昼だっってば!!」
八雲が毛布をひっぺがすと神無は猫のように布団の上で丸くなった。
「夜勤明け…あと30分…」
枕の下に頭を押し込む神無に八雲は目を細めると、何を思ったのか、神無の上に乗ると神無の頭に顔を寄せた。
「かわいい妹の頼みだよ?」
「安心しろそんなのはいない。」
神無の言い草に八雲はムッとすると、神無から降りた。
「じゃあ直哉君に頼む。」
その一言に神無はのそりと体を起こし、眠そうに目を擦る。
「仲良くないだろ。」
「あは。バレた?」
にやりと笑う八雲にため息を着くと、神無は立ち上がった。
はだけた浴衣を直し、入口に立つ八雲を押し退ける。
「なんで…東京なんだ?」
廊下を並んで歩きながら神無は八雲に訪ねた。相変わらず眠そうに欠伸をして。
「かんちゃんこないだ言ってたじゃん。宿儺の器。見に行こ!」
「バカか。見るもんじゃねぇだろ。」
八雲の目的に呆れ神無は頭を掻きため息をついた。
「見とかなきゃね。きっと後悔するよ。」
少し意味深な事を言う八雲を不思議に思うも神無は何も言わなかった。