第5章 宿儺と私。*
「硝子さーん。これ、直せる?」
高専の医務室に入るなり私は学ランとブラウスを脱いだ。硝子さんはぎょっとして、何か書く手を止めた。
「なにそれ。どうしたの?グロ」
「ん〜。宿儺?」
意味がわからないと言うような顔で、取り敢えず座れと言った。
「何がどうなってそうなるのよ。」
硝子さんの反転術式で宿儺につけられた傷はあっという間に治った。治った後は硝子さんからの尋問タイム。
「一瞬だけ宿儺と闘ったんですけど、なんかそれで気に入られたっぽくて。」
嘘ついてもきっとバレるから正直に言った。もちろん3ヶ月のことは言ってない。
「八雲は変なのに好かれやすいな。」
「へ?」
硝子さんはふっと息を吐くと、脚を組み直して私を見た。
「これ、他の誰かに言った?」
「言えるわけないじゃん。」
宿儺に抱かれかけましたなんて、周りが男ばっかりで言えるわけない。一応私にだって羞恥心くらいある。
「まぁいいや。またなんかあったら言いにおいで。」
____八雲は独りじゃない。
頭にかんちゃんの声が響いた。
こういうこと?独りじゃないって。
高専の皆も私の周りにはいる。五条先生も歌姫先生も…。でもさ、
やっぱりかんちゃんが居なくなるのは嫌だな。
独りじゃなくても、かんちゃんがいなくなったら家族いないもん。
「どうした?八雲。」
「何でもないよ。じゃあね。」
ぼーっとしてたらしい。硝子さんに手を振って医務室を出た。
高専内をぶらぶら歩きながらいろいろ考えてみた。
高専に行かないでかんちゃんといるようになったのはいつからだっけ。
なんで生きることに執着してるんだろう。どうせ死ぬのに。
1年も3ヶ月も変わらないじゃないか。宿儺に殺されるならそれでいいじゃん。
なんで勝とうとしてるの私。
ていうか、勝たなくていいよね。気絶しないくらいにはって言ってたし。瞬殺されないようにればいいんだよね。
3ヶ月で?無理無理無理。
術式もない、全力も出せない、おまけに死にかけ。
呪具がなければ何も出来ない。暴走はする。こんなポンコツ野郎に何が出来るって言うのさ。