【呪術廻戦】あなたに殺された私は呪術師として生まれ変わる
第9章 ⑨
「僕が戻ってくるまで、傑とここで待ってて」と悟くんは私に言い残して、乙骨くんたちの元へ向かうためにこの場から離れていった。
星々が輝き始めた宵空の下、影を落とす暗がりの中で私たち姉弟は二人きりになった。
静かに眠る傑の傍に私は膝をついて、十年振りに弟と向き合う。
「…傑」
もう届かないと分かっていても、ずっと会いたかった弟を目の前にして呼びかけずにはいられなかった。
傑は相変わらず微笑んだまま眠っている。
「傑、ごめんね。あなたが苦しんでたことに気づいてあげられなくて」
面と向かって言うことは叶わないと諦めていた謝罪の言葉を伝える。
「私はあなたのお姉さんなのに守ってもらってばかりで、あなたのこと守ってあげられなかった」
ねぇ、傑。
こんな不甲斐ない姉のことを、あなたは愛してくれてたの?
ふと傑の左手に目が留まる。
両手を伸ばして触れてみると、十二月のこの寒さの中で冷たくなってしまっていた。
私はそのまま傑の手を両手で包み込むようにして引き寄せる。
男の人らしい骨ばった大きなその手を見ていると、まるで走馬灯のように傑との懐かしい思い出が私の中で駆け巡った。
私の手よりも小さかったこの手を引いて、通学路を一緒に歩いて家に帰った日々。
家族で遊びに出掛けた先々で、手を繋ぎながら一緒に色々なものを見てまわって体験してきた。
二人で浴衣を着て行った夏祭りで人混みの中はぐれそうになった私を、いつのまにか私よりも大きく成長していたこの手で力強く引き寄せてくれた。
私はもう涙が込み上げてくるのを我慢することができなくなって、嗚咽を漏らした。
『、大丈夫だよ』
『私のこの力はを守るためにあるんだ。だから、安心して私に守られていて』
いつの日か聞いた、傑の優しい声が私の中で甦った。
堰き止めていた感情が急に溢れ出して、私はどうしようもなく傑の手に縋りついて泣いた。
傑のこの手がいつも私を守ってくれた。
どんな時も傑は私に優しく笑いかけてくれた。
悟くんの言うとおり、確かに私は傑に愛されていた。