第1章 それ、恋ですよ
それは、誕生日前のことだった。
この歳になって誕生日なんてもう気にもしていなかったんだけど、ヒカックからの「海外に行くので誕生日祝えなくてすみません」というメッセージが来て、マメな性格だなぁと思いながら、俺は大丈夫と返信を打った。
そうか。俺もう誕生日なのか、なんて思い出しながら。
すると、丁度今日は一緒に飯を食いに行ってたドズルさんが俺のスマホの画面を覗き込み、勝手に見た癖にケラケラと笑いながら、仲良いですね、と揶揄うように言ってきた。
「もしかして、気があるんじゃないですか」
なんて付け足して。
「そんな冗談はやめてよ」
と笑って流したが、寄せられる好意に気づかない程、俺は鈍感ではなかった。
困った、と思ったことはなかった。むしろヒカックと関わることが居心地がいいとさえ思っていた。よく気がつくし、喋っていて楽しいし、かと思えばそんなに喋り過ぎることもない。あれが素なのか、俺の前でああなのかまでは分からないが、今でも思い出せばコロコロと面白いくらい表情の変わるヒカックを思い出して思わず笑みを零しそうになる。特に、彼の好きなサッカー観戦をしている時のうわずった声や楽しそうな話し方は聞いていて楽しい。
「何笑ってるんですか」
隣の席にいるから気づかれないと思ったのに、ドズルさんにそう言われてしまった。ドズルさんからしたら俺の顔は分かりやすいらしいが、多分ドズルさんが誰より色んなものを見抜く力が強いんだと思っている。
「いやいや、なんでもないよ」
と俺が答えると、怪しまれたがふぅんとドズルさんは手元の肉を食べ始めた。
それにしても、どうしたもんかなぁ。こんなにさり気なくアピールされると、どっちか分からないから下手にも動けない。勘違いだったらなお恥ずかしい。
「……相談乗りますよ?」
ドズルさんが急に声を潜めて言ってきた。だからそんなんじゃないって。俺は笑いながらドズルさんの提案を丁重にお断りしつつ、心の中では「何をどう相談したらいいんだよ」とツッコミたくなるのをグッと堪えるように、俺も肉にかじりついた。