• テキストサイズ

蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第1章 純情恋物語編






殿「まさか、伏せったまま逝ってしまうとは思わなんだ。そちには申し訳ないが、智子の亡くなった後始末をして貰いたい」


潤之助「と、殿?……何を仰せで……」


殿「時に、新しくお抱えの薬屋を雇おうと思うてな」


潤之助「はっ??」



潤之助さんは益々困惑した顔になった



殿「智子の病の一件もあったしのう。備えあれば憂いなし、じゃ

…そうそう、翔吾、と言ったかの、薬種問屋の若旦那は」


潤之助「!!!」



殿は、懐から扇子を取り出してパチリと開くと

のんびりそれで扇ぎながら言った



殿「近々嫁を娶るとか。

その折りには夫婦そろって目通りに参れと、お主から伝えて置いてくれぬかの?」


潤之助「!!!……はっ!」



潤之助さんは勢い良く頭を下げた



お智「……父上……」


殿「智子、幸せにな」


お智「父上……!!」



ひしと抱き合う父娘

あたしはそっと目尻の涙を拭った


それを横目で見ながら、雅吉が、カラカラ笑った



雅吉「やっぱりお殿様は人間が出来てらっしゃるねぇ!

いやぁ、粋だねぇ!」


にの江「こ、こら雅吉っ!お殿様に向かって失礼だょっ!!」


雅吉「なに言ってやがんでぃ!若様に張り手食らわした癖しやがってよぅ!」


にの江「そ、それは勢いってヤツだょ!仕方ないじゃないさ!!」


雅吉「あははは!若!やっぱしコイツを側室になんぞ貰わなくて正解でしたぜ!」


にの江「何だってこの、馬鹿亭主がっ!」


雅吉「馬鹿馬鹿言うなぃ、にの江よぅ!まあ、間違っちゃねぇがな!」


殿「いや、愉快じゃの」



殿は、パチリと扇子を閉じると、愉快そうに笑った



殿「これにて、一件落着じゃ!」







/ 286ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp