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蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第1章 純情恋物語編






あたしは、何も出来ずにただ立ち尽くしていた自分を歯痒く思いながらも

地べたに這いつくばって震える翔吾さんに声を掛けた



にの江「……翔吾さん、此処はひとまず戻りましょう

アンタの家の者も心配してるだろうし……」


翔吾「………簪(かんざし)を」



翔吾さんは、体を起こすと、肩を嫌ってくらい落として地べたに座った

それから懐に手を入れて、綺麗な布に包まれた物を取り出した



にの江「……簪?」


翔吾「…コイツを…」



翔吾さんが包みを開けると、中から繊細な細工が施された綺麗な簪が顔を出した



翔吾「…コイツを、お智ちゃんに渡して…

…あたしと、夫婦になっておくれって…

…言おうと、思って…」


にの江「………翔吾さん」



あたしは座り込む翔吾さんの隣にしゃがみ込み、その手に大事そうに握られた簪をまた懐の中に仕舞わせた



にの江「……お智ちゃんの事は、あたしに任せて、アンタは家に…」
翔吾「渡す」



翔吾さんは鼻息を荒げると、むくっと立ち上がった



翔吾「簪をお智ちゃんに渡す!渡すったら、渡す!!」


にの江「しょ、翔吾さん…?(汗)」



全身泥まみれで、ヨレヨレになりながら

翔吾さんがキッと宙を睨んだ



翔吾「あたしゃ、根性なしの腰抜けかも知れないけど

お智ちゃんの事はおっかさんにだって譲れない!

お智ちゃんが姫様でも尼さんでも構うもんですか!!

あたしは、お智ちゃんを娶るためだったら、何だってしてやりますよ!!!///」


にの江「……翔吾さん」



(なんだぃなんだぃ、急に男前になりやがったね(笑))



潤之助「にの江殿っ!」



あたしが翔吾さんの事をちょいと見直していたら

潤之助さんの慌てた様な声があたしを呼んだ




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