第3章 養子騒動編
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雅吉「そう言やぁ、翔の字のやつ……知ってやがったんだなぁ」
大倉さんがバタバタとお宿を出て行った後
雅吉が、恋太郎ちゃんを大事そうに抱いたあたしを見て呟いた
にの江「何がだぃ?」
雅吉「……いや、……何でもねぇよ」
にの江「………」
珍しく言葉を濁す雅吉
でも
あたしには、雅吉が何のことを言ったのかなんて
本当は、すぐに解っていた
にの江「……お智ちゃんのね、おめでたが解ってすぐ後にね……
……お智ちゃんに言われたのさ……
……
……にの江姉さんにも、お子が授かれば良いのに、って………」
雅吉「………」
にの江「……それでね、……
……それ、で……
………」
雅吉「もう良い………それ以上は言わねぇで良い」
にの江「……………」
あたしは、恋太郎ちゃんごとあたしを抱き締めた雅吉の胸に、顔を押し付けて
溢れ出した涙を誤魔化した
『にの江姉さんにも、お子が授かれば良いのに
どうしてにの江姉さんには、お子が出来ないのかしら』
何の悪気もないお智ちゃんの、素朴な疑問が
塞がっていた傷口を、ギシギシと疼かせる
『やっぱり、雅吉さんが留守がちだからなのかしら?』
違う
そうじゃない
『今度、翔吾さんから言ってもらいましょうか?
もっと、ちゃんとご自宅にいらっしゃるように、って』
そんなコトをしたって
ややなんか出来やしない
『…違うんだょ、お智ちゃん…
あたしはね、あたしは……』
あたしは
子が
出来ないカラダなんだょ…
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