• テキストサイズ

蜩(ヒグラシ)の宿─にの江大江戸人情帳─

第3章 養子騒動編


.



お智「あぁ、いけない、そうでしたわ///」



お智ちゃんはそう言って恋太郎ちゃんを腕から下ろすと

あたしに真っ直ぐに向き直った



お智「実は、お屋敷からお呼びがかかりまして…

…それで、私がお屋敷に行っている間、この子の面倒を見て頂きたいのです」

にの江「ああ、何だそんな事かい

それならお安いご用だけど…


…お屋敷って…ご実家の大名家のことかい?」

お智「……はい」



お智ちゃんは、小さい声で返事をすると

微妙な顔をして曖昧に微笑んだ







お智ちゃんは、今は薬種問屋の若女将として暮らしているけれど

元は、由緒正しい大名家の姫君だった


それが、擦った揉んだの末に愛する翔吾さんと結ばれて、町娘として薬種問屋に嫁いだのだが

お智ちゃんが大名の姫君であることは、あたしも含め、ごく一部の人間しか知らない秘め事だった


お智ちゃんは、側室の忘れ形見で

彼女には、殿様と御正室の方の間に産まれた腹違いの兄が居たのだけれど


これが、絵に描いた様なぼんくら若様で

そのぼんくらの所為で未だにお家は落ち着かなかったのだが

一年ほど前、風の便りでそんな若様がとうとう正式に跡継ぎを認められてお国入りしたと言う噂を聞いていた



あたしは、たまたまお智ちゃんの実家の大名家に縁があったから、色々内情を知ってはいたけれど

翔吾さんの両親は、その事実を知らなかったし


夫である翔吾さんは、お智ちゃんの素性を知ってはいたのだけれど

大名家の内情が複雑であったことは、その翔吾さんも、知り得ない事だった



.
/ 286ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp