第1章 恋の季節【空回り】
沖田の言葉に落ち込んでいると、ハム子は何かに気づいたように私の腕を取った
「そうよ!アンタこんなとこにいる場合じゃないじゃん」
『え、どこ行くの?』
「昨日の1年の手紙の子の教室、今から会いに行けば返事はまだ間に合うわよ」
そう言ってハム子に腕を引っ張られる
『いやでも私は…』
「いいからッ!」
半ば強制的に連れて行かれそうになるところを…
パシッ
『え…?』
突然沖田に反対側の腕を掴まれた
『えッ…お、沖田!』
それは本当あまりにも突然で、私の思考回路は一時停止した
沖田は腕を掴んだまま私を見つめ、ゆっくりと口を開いた
「…お前…」
『…えっ』
「今からコーヒー牛乳買ってこい、30秒以内に」
『…はい?』
沖田のその言葉にまわりは一斉にズッコケた
あぁ…なんだ、パシられただけか…。
ちょっと期待もしちゃったけど…そんなわけないか…。
さすがに沖田のパシリになりたいわけではないので断ろうとした時…
「行くだろィ、"大石"」
え…!
『お、沖田…今なんて?』
「うるせェ、早く行け」
沖田…今私のこと…"大石"って呼んだ?
私は自分でもわかるくらい顔が真っ赤になった
『大石結衣ッ…いっきまーす!!』
ナツコ達に一言言って私は購買に向かって走った
沖田と出逢ってはや1年…、何にも進展がないと思ったけどそんなことはなかったんだ!!
いつも"お前"とか"オイ"とかなのに沖田がさっき初めて私のこと苗字で呼んでくれた…。
好きな人から名前を呼ばれることがこんなにも嬉しいものなんて…やっぱり恋って素敵!!
春は恋の季節…これから、これからだよ…
もっともっと呼んでほしいな…
どんな小さなことでもいい、ゆっくり確実に距離が縮まって、
そしていつか絶対…
沖田に好きになってもらうんだから!!
後日、放課後。
「結衣…アンタなんでZ組の教室掃除してんの?」
『あ、ナツコ、ハム子!ふふ…実は沖田がね、掃除当番をかわりにやったら教室で待ってていいのと部活観に来てもいいって言ってくれたの!沖田の教室を掃除出来るなんて寧ろ幸せだよね~』
((結局パシられてる!!))