第19章 約束と決意
「落ち着いた?」
『…はい』
そう言って目の前の彼からコーヒーの入ったコップを受け取る
あれから私は沖田を追いかけることも出来ずただ泣き崩れていた
すると目の前の彼が私を近くの店まで連れてきてくれて二人して席に向かい合わせになるように座った
「名前、言ってなかったね。俺は吉田総汰、大学一年で銀高の卒業生」
よしだ…そうた
名前までそっくりだな…。
『先輩だったんですね…』
だから会わなかったんだ…。
「でもまさか俺のこと覚えてたなんて驚きだな」
『え?』
「ほら、だってもう3年くらい前だろ?あれっきり会ってもないのに覚えてたなんて…なんか不思議だよ」
あの日からあなたに片想いをしてました。
…なんて言ったら驚くかな。
『それを言ったら吉田さんだって覚えてるじゃないですか』
「そりゃあ…あの時はかなり印象に残ったからな!」
『そんなにですか?』
「うん、だって大声でパンの名前言いながら階段降りて来る子初めて見たし」
そう言ってプッと笑う彼に自然と私も笑みがこぼれた
この人が…私の想い人だったんだ…。
本当の想い人に会えたというのに私の頭には何度も沖田の顔が過ってくる
後悔とは違う、どうしようもない感情がずっと胸の奥に渦巻く
そんな私の顔を見て吉田さんは言った
「さっきの…彼氏?」
『…いえ、彼氏ではないです…』
「じゃあ"好きな人"だ」
『…』
「そっか…まぁ事情とかは俺にはよくわからないけど…さっきは何で追いかけなかったの?」
…。
『…から』
「?」
『追いかけても…意味がないから』
言いながら俯く私を見て、勿論彼は意味がわからないといった顔をしている
『一緒に居られないってわかってて気持ちを伝えても意味ないんです…きっと』
どうせ離ればなれになるのだから…
言わない方がいい。
いつかのミツバさんが言ってた
- 大事に閉まっておきたいの -
私もそう。
伝えて壊れてしまうのなら、もうこのままでいい…。
私が沖田を好きな気持ちは、私だけが知っておけばいい。
お互いの気持ちなんて…知らない方がいいに決まってる。
そうしたら誰も傷つかないんだから。