第16章 二人だけの花火
[沖田side]
いつの間にか花火は終わっていてお祭り客もぞろぞろと帰り始めていた
そうして気づくと辺りは静かになっていて残ったのは俺と吉野だけだった
だが相変わらず彼女はこちらを向かず俯いている
チッ、このままじゃ埒があかねェ。
「お前…俺と山本がキスしてるとこ見たんだろィ?」
『ッ…』
そう言うとあからさまに顔を歪める吉野
「…言い訳するわけじゃねーがあれは事故っつーか…気づいたら山本の顔が目の前にあって…。俺も一瞬で何が何だか…」
今の俺はきっと誰がどっからどう見てもカッコ悪い奴だ。
言い訳じゃねェとか言って、言ってることはほとんどそれと変わらねェ
だけどそんなんでも彼女の顔が晴れるならそれでいいと思った
いつものヘンテコな顔で笑ってくれればそれでいいと思った
なのに…
『…何で謝るの?キスはルールだったし、それに私が何かを言う権利なんてないよ、だって沖田は私の彼氏じゃないもん』
は?…
何でィ、それ。
彼女の顔は晴れるどころか暗くなっていく一方で、俺はまるで心臓が握り潰されたような感覚になった
キスしたから怒ってたんじゃねーのかよ。
「わかんねぇ、ほんとわかんねーよお前」
『…』
吉野は黙って俺の手を振り払い歩き出した
そんな彼女の背中を見つめ拳を握る
嫉妬じゃないなら…何を思ってお前はそんな面すんだ。
俺だって言われねェと…気づかないことだってあんだよバカ女!!
どんどん離れていくその背中に俺は思いっきり叫んだ
「言いてェことがあんなら、はっきり言いやがれ!!」
逆ギレってやつだ…
自分でも言ってて少し後悔した
だがこの後の彼女の行動にその後悔は一気に吹き飛ばされる
『言いたいことは…』
叫んだ俺の言葉に吉野の歩く足が止まったかと思いきや、
『いつもはっきりしてるわァァア!!』
「ぐッ!」
俺の方を向いて物凄い勢いで飛び蹴りをかまし、そのまま二人して地面に倒れこんだ