第1章 ロッカーパニック
その日は久々にドズル社にメンバーが集まって撮影をする日だった。なんでも、夏の企画ということで、全員が浴衣姿で撮影してそれをブロマイドにするらしい。
ゲーム実況から始まった俺たちが、まさか本当のアイドルと変わらないようになるなんてな、と思いながらドズル社に向かうと、既にぼんさんが到着していると聞いたから驚いた。なんでも、昨日別の用事でドズル社にいて、泊まりで撮影に臨むらしい。
ぼんさんにちょっとイタズラをしてやろうとスタッフに聞いて、寝泊まりをしていた部屋を聞き出してやって来たが、運が悪くてぼんさんはいなかった。トイレかどこかに行ったんだろうか。
いや、これはチャンスだ。俺はそう思うことにしてぐるりと部屋を見回す。机と複数個の椅子と鏡、左手にはカーテンを掛けられる座敷のスペースがあり、他は大きなロッカーが並んでいるだけだった。ロッカーにぼんさんの着替えがあるかも、と思った俺は、イタズラを仕掛けようと歩き出した。
バタン……。
「あ、開いた?!」
「……は?!」
ロッカーから出てきたのはぼんさん……ではなく、ドズルさんだった。
「な、にしてんすか、こんなところで……?!」
俺が驚きながら訊ねると、はっはっはっはっと笑いながらドズルさんがロッカーから出てきた。
「いやぁ、実はさ、部屋間違えちゃって」とドズルさんは話す。「浴衣に着替えるからって、先に脱いでたら、ぼんさんがあとから来てさ、僕の着替えをどこかに持って行っちゃったんだよね」
「それ、マズくないです?」
「はっはっはっ、だよね〜」
とは言いつつ、全然焦っている様子はない。俺はその赤い瞳に宿るような炎の揺らぎについつい見取れてしまう。というかなんで半裸なんだ。先に脱いでるのは変だろ。瞳から逸らそうとすれば、鍛え抜かれた筋肉の方を見てしまう。これこそ、目のやりどころがないってやつだ。