第10章 知らない女の子と五条くん
「夏油が1番分かってるでしょ。優しいだけの男はモテないって」
「焦りは禁物、急がば回れだ。何も驕りはない」
2人は豪速球でラリーを続ける。
「意外とセンスのない人なら、回り道ばっかしてるヤツよりも馬鹿みたいにストレートな方が伝わるかもよ」
実際にね、と硝子は付け足した。
「お生憎様、人それぞれやり方と言うものがあるんだ。硝子が気にかける必要はない」
とても…口を挟めるような空気ではない。
闇を孕んだように暗く淀んだ空気を切り裂く何かは、突破口は、そんなものどこにも落ちていない。
それでも……、最後まで「楽しい思い出」にしたいから。
そんな正直すぎる動機で突き動いたって、たまにはいいじゃないの。
「硝子って…私に比べれば随分と大人びているけれど、夏油くんが絡むと子供っぽい一面もあるのね」
またしても自分以外の誰かの言葉を借りたセリフだったけれど、舵は切れた。
「寧々勘違いしないで!私は寧々の為に…っ、あー…もう、ほんっと違うから…!」
硝子はテーブルにガタッと手をついて勢いよく立ち上がる。
「寧々のことを1番分かってるのは私でしょ!?」
「……!?」
知らなかった硝子の一面を垣間見た。
どうやら硝子は私が絡むと年相応のヤキモチを妬く…らしい?