第10章 知らない女の子と五条くん
「私が食べてあげよう」
一人称こそ同じ「私」だけれど、私と違って五条くんの手を自ら掴み、自分の口元まで引き寄せた……
「夏油くん」
五条くんが拒絶をするよりも早く、桃が乗ったスプーンは夏油くんの口に吸い込まれた。
「寧々ちゃんが嫌がっていたからね。悟、子供っぽい事はやめろとあれほど言っただろう?」
男の人にしては長い黒髪をお団子にまとめて、ダランと垂らした前髪が特徴的な夏油くんは呆れた顔を隠さない。
「夏祭りの時のことをちっとも反省していないね」
「今はもう寧々は俺のこと大大大好きなんだよ」
「別に大大大好きじゃないのだけれど」
嫌いじゃないし、普通でもない、それ以上かもしれないとは思っていたけれどね。
そんなに大きな気持ちでは…まだ、まだ…ないはずよ。
そんな私の答えに五条くんは悲しそうに目を潤ませ…は、しなかった。
「寧々は人前でイチャつくタイプじゃねーんだ。今も本心では俺のこと好きすぎて困ってんだよ」
「さすが五条くんね。イカれてるわ」
食べ終わったスプーンをカチャンと置いて、後ろでこっそりと様子を伺う硝子に目配せをする。
「硝子が夏油くんを呼んだの?」