第2章 MENぼん
ぼんさんのボヤ聞き相手に付き合わされてしまった俺は、動揺を隠し切れているか自信はなかった。
確かに、なんとなくだが、ぼんさんはドズルさんになんらかの好意を寄せているような感じはした。ぼんさんは、最終的には冗談だと笑って流したが、俺の中では流せないものとなっていた。
いいや、あの笑えないホラー話は冗談なんかじゃない。
と俺は確信していたが、それは同時に、自分の中にある気持ちをも認めざるを得ない形となっていた。
俺はぼんさんに好意を寄せている。
ぼんさんはああ見えてかなり紳士的だし、正直刺激的なものを好む俺にとって、彼の話すことも思いつくことも時々殴り合うことも楽しい。
一緒にいて楽しい相手が、まさかそういう感情になるとは思わず。だが、あの二人に割って入ることは到底無理だ。俺にとってあの二人は尊敬の対象なんだ。今更、別の感情がありました、なんて伝えられる訳もない。
なのに俺は、ぼんさんが話した冗談のような本当の話を、全く否定することが出来なかった。一言、そんなはずはない、くらい言えたなら。ぼんさんはあんな暗い顔をしなかったはずだ。
ぼんさんは取り繕うのがあまり上手くない。けれども気持ちの切り替えが早くて、すぐにはけろりと忘れたかのように笑ってくる。俺の話の聞き相手としての対応は果たしてこれでよかったのか、不安で仕方なかった。
「あ、まだいたの」
ぼんさんが部屋に戻ってきた。トランプ片付けるの忘れたと思ってさ、とぼんさんが言ってきたので、もう片付けましたよ、と俺はテーブルを指した。
「あ〜、ありがとう〜、MEN」
俺がまとめたトランプを手にするぼんさん。その手元につい目が奪われて俺は一瞬固まってしまった。
「どうした? MEN」
「ああ、いや」俺は無理に目を逸らした。「また聞かせて下さいよ、ぼんさんの面白い話」
どうにか話題を変えようとして言った一言。ぼんさんは苦々しくも笑いながら、そうだなぁと呟いた。
「また何か思いついたらね」
「楽しみにしてます」
こういう言葉はスラスラと出てくるものだ。だが、ぼんさんは何も気づく様子はなく、ほんとかよ、とはにかむように茶化してきた。
俺にはこれしか出来ないんすよ。
俺は心の中で呟きながら、ぼんさんが部屋を出て行くのを見送った。