第1章 眠り姫
「俺は、この部屋の空気の入れ替えをしに来ただけだ。
しばらくしたら、窓を閉めておいてくれないか」
「ああ」
山姥切国広が主の部屋を出ていき、戸が閉まるのを確認した。
ベッドの縁に腰を下ろし、主を見つめる。
「…主、皆が心配しているぞ」
手袋を外した右手で、主の頬にそっと触れた。
肌は相変わらず血色がなくて青白い。
死んだように眠っているから、つい頸動脈に触れて脈があるかを確認してしまう。
「………」
脈があることが分かると、安心する。
脈拍がある=心臓が動いている ということだから。
すなわち、主は生きていると言うこと。
「…出来れば、気付きたくなかったんだがな。
自分の中に巣食う、この想いに…」
主の頭をふわりと撫でると、愛しい気持ちが込み上げてくる。
〝あるじさん、まるで眠り姫だね〟
〝眠り姫はね、魔女の呪いで眠りについてしまったお姫様が、王子様の口付けで目を覚ますっていうお話だよ〟
乱が言っていた言葉を不意に思い出した。
確かにその通りだな、と。
ベッドの縁に座ったまま、主に覆い被さるように身を倒す。
「……俺の、眠り姫…」
どうか目を覚ましてくれ。
その願いを込めて、主の唇に自分の唇を重ねた。
「…こんな事をしても、目覚める訳がない、か。
所詮童話の中での出来事なのだからな」
くだらない事をしたと思った。
それをごまかすように窓際へ移動して窓を閉めると改めて手袋をし、主の部屋を出た。