第31章 由縁
side 安室
少し早めに来た美緒さんをテーブル席に通し
待たせるのも悪いので休憩時間を前倒しし
美緒さんの向かいの椅子に座った。
僕が今日ここに彼女を呼んだのは
ただ美緒さんに会いたくて顔が見たかったから…
もっとこの人の色んな顔を見たくて
赤井のどこが好きなのか聞いてみたが
嘘の理由で呼び出したことにムッとしている美緒さんは
僕のその質問には答えてくれなかった。
…まぁ、答えられても苛立つだけだから
話されなくて良かったけどな。
そして先程、ベルモットから聞いた話をもっと詳しく聞こうと思い、美緒さんがアメリカに行った時の事を教えて欲しいと伝えた。
大した話じゃないから話してくれるだろうと思っていると、
この間の事件の時、
僕が観覧車に仕掛けられた爆弾を解体した事に対して
美緒さんはわざわざお礼を伝えてきた。
僕にとってあれはただの仕事で…
そんな風に恩を感じてもらっていると知り、胸の奥が熱くなった。
僕はきっと…美緒さんのこういうところが…
『高校一年生の時にニューヨークへ行ったんですけど…』
僕の考えている事なんて全く気にしていない美緒さんは
昔のことを思い出しながら話していた。
…伝えてはいけない気持ちだとは分かっている。
でも美緒さんと会う度に
この気持ちは膨れ上がるばかりだ…
まさかこの年齢にもなって…
片想いを体験するとは思わなかったな…。
僕の目の前で、昔話をする美緒さん…
彼女のどんな顔を見ても
僕はもう可愛いとしか思えなくなっていて…
それほど美緒さんの事を好きになっていることに自分でも驚きながら、彼女が話す昔話に耳を傾けた。