第3章 ベットの記憶
しんと静まり返った夜の中、俺はちょっと硬いベットで横になっていた。
ここはどこだっけ、と見回したら見覚えのある背中が見えてドキッとした。
「ドズルさん?」
しかし、そう声になる前に目の前の景色がぐにゃりと消えて俺は飛び起きた。
……夢だった。
なんで今更こんな夢を見たんだと思った。あれはどこの思い出の話? と俺は頭の中でグルグルと考え、あんなにさっぱりとした景色の中でドズルの背中を見ることなんてなかったはずだ、と答えを出す。
よくよく思い出せばドズルは半裸だったし、なぜか俺たちは野宿をしていた……と夢の記憶がはっきりしてきた時、あれはゲーム内のことだと判明して一人ため息をついた。なんて夢を見たんだ。俺はベットを下りて台所へ向かう。
コップ一杯の水を飲んで一呼吸つく。
この数年で、俺は奴のことを諦められたんだと思っていた。だがこうして夢にまでその想いを引きずってるんだから、俺って本当に未練がましいなと思う。
いつだったか、誰かに言われてベットを離して置くようになった。男同士、しかもゲーム内ですらそんなことに気遣わなきゃならないなんて正直馬鹿らしかったが、真面目なドズルはそれを真に受けて「ベットを離しましょう」なんて言った。
俺は大したことないと思ってすぐに快諾はした。快諾はしたが、のちにベットを離したことを心惜しいと思っていた。俺はいつだって気づくのが遅い。俺は、ドズルのことが好きだと思った。友情とか、仕事のパートナーとか、そういうのを越えて。
分かってはいた。奴はもう結婚していたし、その奥さんがまたかわいくてしっかりしていていい人だ。俺には敵わないし、それに、俺は男だし。
もし、俺が男じゃなかったらとも考えたが、逆に考えたら俺が男じゃなかったら、こうしてドズルと関わることもなかっただろうし、あのゲーム内で究極のベットではしゃぐこともなかったのだろうな。
究極のベットか。懐かしいな。何もかも。
俺はスマホを確認し、まだ起きる時間じゃないなともう一度布団に潜った。見当たらない温もりを探そうとしてしまった。あるはずはない。俺は無理矢理目を瞑った。