第1章 俺たちはアイドル
「アイドルの顔に何するんだ!」
ハチが襲ってくる世界でサバイバルゲーム。俺とおんりーチャンは四苦八苦しながらも、なんとかそのサバイバルゲームのボスを討伐し、撮影も終えた頃。
俺はずっと、おんりーチャンが言っていたその言葉が脳裏から離れずにいた。
アイドルの顔に何をするんだ?
その時は、ノリと勢いで「そうだぞ」なんて返したが、落ち着いてよくよく考えるとなんだか恥ずかしい。
つまりは、おんりーチャンが急にそう言ってきたことに、俺はなぜか動揺していたことが大問題なのだ。
「……何」
そろそろ通話を切ろうとした時、おんりーチャンが何かを察したかのように問いただしてきた。
「あー、いや……」
話を誤魔化そうとも考えたが、こう言いかけた時点ですでに怪しいのだ。それに、察しのいいおんりーチャンから、怪しまれないようにすることが難しい。
俺は、出来るだけいつもの口調を崩さないようにこう言った。
「まさかおんりーチャンが、アイドルの顔になんてことするんだ……なんて言うと思わなかったからさ」
笑いも混ぜっ返せばそう深くは察せないはず。そんなガバガバな俺の計算はこんなところでもズボラさが出ながら、おんりーチャンの言葉を待った。
「あー、そのこと?」淡々とした口調から、やはりあまりおんりーチャンからの心境は読めない。「俺はいつもそう思ってるけど」
「マジで?」
いや、この言い方はマズかっただろうか。おんりーチャンは誰にでも優しいし気配り上手なのは俺だって知ってる。そういう意味じゃなくて、と訂正するよりも早く、おんりーチャンの言葉が続いた。
「分かってるよ」
その言い方はドキリとする。
どこまで分かってる? なんて、さすがの俺も聞き出せない。察しのいい彼がよく言うようなセリフだが、この状況下でその一言は色々考えてしまう。
「でも、俺たちはアイドルでしょ?」
「ああ」
俺たち、か。
確かに、俺たちはアイドル活動とほぼ変わらないかもしれない。視聴者さんからしたら、俺たちは画面上にいるアイドルだ。
「てっきり、泥でも塗るのかと思ってさ」
俺は訳の分からないことを言った。向こうでおんりーチャンが、何それと言いながら笑っているのが聞こえた。
俺はそんなおんりーが、一番のアイドルかもしれないな、と思いながらも、この感情が確かに分かるまでは、俺も一緒に笑おうと思った。