第6章 人狼族との出会い(前編)
「人間を観察してる途中で
俺に嫁がいないから
頭首になれないって話で
言い合いになっちまってな」
「兄貴が早く守るべきものを
作らないから人狼族を任していいか
みんな決めかねてるんだろ!」
また言い争いになるのではと焦るが、
リヒターは取り合わずルシアリアに
わかるよう説明してくれる。
「和平するかの瀬戸際でもあるが
頭首交代の次期も近づいていてな…
人狼族はみな家族を大切にするから
伴侶を作る事が頭首になる条件でも
あるんだ。
俺がなかなか伴侶を
選ばないのが悪いとは思ってるんだが
伴侶はそう簡単に決められるものじゃ
ないだろ?
なのに…わかってる事を
グチグチ言われて頭に来て
言い争いになって…
手の早いあいつに殴られた先に
あんたがいて世話になったんだ。
…巻き込んで悪かったな」
リヒターとは、先程会ったばかりだが
人を引き付ける素質を持っていると
思えた。人間の自分ともしっかり
向き合ってくれて今は狼の耳もなく
普通の人と見た目は全く変わらない。
仲良くなるのはそう難しいとは思わなかった。
「いいえ。…頭首になれるといいですね
和平も…できるといいと思います!」
朗らかに笑うルシアリアの手を
ガシッとリヒターが握る。
「協力すると思って俺の嫁に
なってくれ!いや、それがなくても
あんたに惚れた!
俺の嫁になってくれ!
人間との和平を考えてる今、あんたとの
出会いは偶然じゃない!」
「えっ、本気だったんですか?
いやいやいや…」
「また兄貴の突っ走りが始まった。
こうなると止められないんだよな…」
ルシアリアが戸惑っているとレクトが
げんなりと諦めた顔をしている。
「俺は本気だ!やっぱり人狼族は恐いか?」
「いえ、恐くはないですけど私には…」
「もっと人狼族の事知ってもらえたら
いいよな!今から俺達の集落に
連れて行ってやる!」
「えっ?いや、待っ…きゃあぁぁ」
軽々と肩に担がれルシアリアは
暗くなる町の外に向かって
連れて行かれたのだった。