第10章 過ぎた恋の話し
「大野!」
「……」
何時も使っている個室に入ると、松岡さんがワイングラスを片手にソファーに腰掛けていた
僕を見るなりいつもの様に破顔して、僕を手招きする彼
僕は呼ばれるままに、彼の元へとフラフラと歩いて行った
「……逢いたかった……大野」
「……」
近付いた僕を、その腕の中に閉じ込めて抱き締める松岡さん
愛した人の匂いに包まれて、胸が張り裂けそうになる
「…大野…本当に悪かった……俺が、愚かだったよ…
妻とはちゃんと別れる…今度こそ絶対に別れるから…
…俺の所に帰って来てはくれないか?」
「……」
松岡さんの甘い声が、僕を誘惑する
(あの時と同じ……僕らが最初に過ちを犯した時と…)
“妻とは別れる
だから、俺のものになってくれ”
彼はそう言って
…この店で、僕を抱いた
本当は
解ってた
松岡さんは、奥さんと別れない
…別れ、られないって…
それでも
いつか、松岡さんが僕だけのモノになるんだって信じて
僕は、彼の
…愛人に、なった