第16章 夢の中の彼と香りの記憶
私は1つの書物を読んでいた。
雛鳥が不思議なことを言い出したもので…。
「嗅覚と記憶」
私の服に染み付いた香の匂いが懐かしいなどと言い出したものでなぜそのように至ったのか気になってしまった。
「山鳥毛?何を読んでいるんだい?」
薬研が開いていた襖に寄りかかっていた。
「薬研か…。」
薬研は医術に詳しい。
もとは仲間の怪我を治したくてなど言って、勉学に励み知識を広げていた。
「少し前に雛鳥に会ってしまって、その時に私の服の匂いが懐かしいと言っていたんだ。
転びそうになったのを支えた時に匂ったのかもしれないが。記憶はたしかに消えていたはずなんだ…。
だから不思議に思って調べている。」
「アイツに!?会ったのか!?
……大将は知ってるのかい?」
「いや、言ってない…。
雛鳥も忘れていたと思っていたから。
だが、先程話したのが気になってしまって…。」
私は本に目を落とした。
「………お香の匂いのことか?」
「あぁ…。」
「それってもしかするも……プルースト効果のことかもしれないな。」
ぷ、プルースト?
「プルースト効果っつうのは特定の匂いがそれに結びつく記憶や感情を呼び起こす現象のことだ。
人間の脳にある記憶を司る海馬が嗅覚と直結しているのは知ってるか?」
「いや…。」
「それがもしかしたら、あんたの匂いに反応したのかもな?
もしもその匂いが特別な感情と繋がっているなら尚更ありえるかもな…。」
薬研藤四郎はそれじゃあと言ってどこかへ言ってしまった。
まさか…な。
期待を持ってしまうのは止めよう。
私は本を閉じ天井を見つめる。
最後の香を渡してから4回ほど季節が回っている。
既に無くなっているだろう…
私はそう言い聞かせ息を吐いた。