第12章 いち子
わたしの夢は小学校の養護の先生。
その為にはどうしても『理系の大学』を目指さなければならない。
中学もロクに出ていないわたしには高すぎるハードル。
何度も挫折しそうになったけど蕗田先生はその度に勇気をくれた。
「いち子くんなら出来る!」って。
わたしはあの日、一人職員室に飛び込んだ。
「白田先生!蕗田先生は本当にお辞めになったんですか?!」
帰り支度をしていた白田先生は面倒くさそうに言った。
「嘘ついて何になるのですか?やはり貴女の頭では理解出来ないですか?
お年ですので定年退職です。前々から決まっていたことです。」
「で、でもっ、前から分かってたのにどうしてわたしたちに何にも言わないで………」
「言ったからってどうなるの?
ああ、もうこんな時間になっちゃった!」
白田先生はカバンを持っていそいそと帰ってしまった。
他の先生方もいつもの様にさっさと帰宅していてぽつんと一人職員室に残されたわたし。
ふと、片隅の流し台の洗いカゴの中の見覚えのある茶碗に気がついた。
(これは……………)
わたしはその茶碗を手に取り、胸に押し抱いた。