第5章 第一学年二学期
その朝、蕗田先生は職員室に姿を見せなかった。
「寝坊かな?」
「珍しいこともあるもんだね。」
「ちょうど一時間目は英語だから教室に来たら渡そっ!」
「ハッピーバースデー♪歌っちゃう?」
ガラガラ………
教室の戸を開けて入って来たのはヒョロっとした小柄の若い男性。
(え?!)
「今日から英語を担当する川中です。
それでは授業を始めます。」
他の教師もそうである様に余計な事は一切喋らず、淡々と授業が進められる。
「じいちゃんはどうしたんだ?」
「具合でも悪くした?」
私たちは動揺を隠せない。
「先生っ!」
堪らずなぎさが立ち上がって叫ぶ。
「蕗田先生はどうしたんですか?」
『川中』と名乗った教師は神経質に細いメガネを指で押し上げながら言った。
「蕗田先生は今日で定年退職されました。」
「え―――――――!?」
「何だよ!じいちゃんウチらに何にも言ってなかったじゃん!」
大騒ぎする私たちを他所に、川中先生は乾いた声で授業を再開した。
3月は瞬く間に過ぎ去っていった。
しばらくは『じいちゃんロス』でテンションが落ちていた私たちだったが………
「じいちゃんのおかげで勉強のコツは掴めてきたじゃん。」
「そうだね、なぎさ。大変だけど自分らで助け合いながら何とかやってこ。」
「二年になってまたじいちゃんみたいないい先生来るかもしれないし。」
「あと、何てったって男子と一緒になるよー―――!勉強一緒にしてくれるイケメン君に期待!」
春4月の進級に私たちは胸躍らせていた。