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テニスの王子様 短編まとめ

第3章 堕ちゆく


隣の席の幸村精市くんはテニス部の部長をやっている。
なんでもうちのテニス部は幸村くんと真田くん、柳くんが入部してからというもの負けなしの常勝チームらしい。
その中でも部長の幸村くんは特にテニスが上手いらしく、「神の子」だとか「コート上の貴公子」だとか呼ばれているらしい。

そんな彼がついこの間の大会で一年生に負けた。

幸村くんとはそこまで仲が良いとは言えないけれど、隣同士のよしみで会話を交わすことは何度もあった。
彼は「テニスバカ」という二つ名を進呈しても良いほど口を開けばテニスの話ばかりで、でも私はキラキラとした笑顔で嬉しそうに語る彼の横顔を嫌いにはなれなかった。
だから負けたという噂を人づてに聞いた時に、なんだか他人事に思えなくて、
「少しでも良いから励ましの言葉をかけたい」と放課後の校内を彼の姿を探して歩き回った。

しばらく歩いていたら、屋上庭園でブルーの小さい花に水やりをする彼の姿を見つけた。さて、いざ本人を目の前にすると緊張する。なんて声をかけよう?こんにちは、とかでいいのかな?

「桔梗。本当は秋の花だったんだけど、品種改良で今は夏に咲く早咲きの種が一番出回ってるんだ」
こんにちは、と普段と変わらぬ笑顔で笑う彼。

「こんなところで会うなんて珍しいね」
「幸村くん美化委員だから、ここなら会えるかなって」
「…ぷっ。なにそれ。まるで俺が恋しくてたまらないみたいだ」
このままだといらぬ勘違いをされそうなのでさっそく本題に持っていく。

「あのさ、孫子も言ってた。『勝敗は兵家の常』だって」
「どうしたの、急に」
「だから、その、今回のことは気にしないで…」
どうしよう。上手い言葉が出てこない。
幸村くんはしばらく口ごもる私を訝しむように見つめた後、どうやら勘付いてくれたようで、
「……ああ、知ってたんだ」と淡々と言葉を紡いだ。

重い沈黙。
話し始めたのは私なのだから、何か言わなくてはならないのに、良いセリフをひねり出そうとしても全て幸村くんの心を傷つけてしまいそうで言い出せない。

この沈黙を破ったのは意外にも幸村くんの方だった。

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