第1章 私を想って
「幸村、シロツメクサの冠作れる?」という唐突過ぎる彼女の発言から俺たちは今、学校の屋上庭園にいる。
「寒ッ」
「当たり前だろ。まだ三月の頭だよ」
手のひらをこすり合わせて小刻みに足踏みをする姿はまるで小動物のようで少し可愛らしい。
けれどこんなことで風邪を引かれては困る。
「中入る?」
「だいじょぶ」
俺の助言も聞かずに彼女はそそくさと花壇に向かい、その場にしゃがんでシロツメクサを摘み始めた。
「そことそこを繋げて…うん、そう」
「こう?」
なんだかんだ飲み込みは早いようで、最初は難儀していたようだけども、少しコツを教えたあとは黙々と冠を編んでいた。
教えることもなくなってしまったので手持ち無沙汰になった俺は空を仰いでみる。
三月。
ジャケット一枚ではまだ肌寒いけれど、太陽の日射しは冬に比べ確かに力強くなった。
春がやってくる。
春は好きだ。雪解けと共に殺風景だった草木にも色が戻る。その様子がまるで生命を吹き返すようで、病に伏していた時はとにかく春の到来を待ち遠しく思っていた。
あの時はこんな風にまた人と交じり合いを持って他愛のない話に笑うことができるなんて思いもしなかった。
太陽の日射しを浴びて、両方の足で地面を踏んで。確かに俺は生きている。
そう改めて考えると、当たり前のこともひどく美しいものに見えて、目頭が熱くなってくる。