第64章 幸福
女性従業員の人に促されてエレベーターを降りた私は
ぼーっと零くんを見つめていた。
「では、5分後にあちらの階段から屋上に向かって下さい。私はこれで失礼致します。」
私が着ているドレスのトレーンを綺麗に整えてると
従業員の人はそのままエレベーターに乗って去って行き
屋上まで続く階段の前で私達は2人きりになった。
『…零くん。』「…美緒。」
話し出すタイミングが被ってしまい2人で顔を見合わせた。
『「……ははっ。」』
以前にも同じことがあったなぁと思いながら
私達は笑い合っていた。
『零くん……ありがとう。
結婚式の準備なんて1人で大変だったよね…?』
「美緒の喜ぶ顔が見たかったんだ。
全然苦じゃなかったよ。」
…本当はすごく大変だったはずだ。
江ノ島に行くことが決まってからの1ヶ月間、
零くんは家に帰ってくるのが毎日遅かったし
いつもすごく疲れた顔をしていたから……
きっと相当無理をしていたに違いない。
なのにそれを誤魔化して
私を喜ばせるために頑張ってくれていた零くんが愛しくて胸が熱くなった。
『このドレスも…零くんが選んでくれたんだよね?』
「美緒に似合うと思って即決だったよ。
思ってた通り……いや、思ってた以上に綺麗だ。」
『…ほんと?』
「ああ。僕の花嫁だって
世界中の人に自慢したいくらい綺麗だよ。」
私を見つめる零くんの目が
いつもよりうっとり、としていて……
本当にそう思ってくれているようでとても嬉しかった。
『零くんもタキシードすっごく似合ってる。
髪型も素敵だし…ずっと見ていたくなるくらいカッコいい。』
「ありがとう。
僕も美緒のことをずっと見続けていたいくらいだ。
こんなにも美しい女性が僕の嫁だなんて…
夢を見ている気分だよ。」
ストレートすぎる褒め言葉に照れ臭さを感じるが…
私達はしばらくの間、見つめ合いながら
お互いの姿を褒め合い続けていた。