第21章 復讐
「…ふっ。なんでそんなにあの男の肩を持つんだ?
君が忘れている記憶を知ってるからか?」
『…何…言ってるの…?』
私を見る零くんは
今まで見たことがないくらい冷たい目をしていて…
すごく怖くて鳥肌が立った。
「違うって言えるのか?
あいつが死んだら一生思い出せないかもしれないし
それは美緒にとっても困る事だもんな。」
『…。』
なんで…そんなこと言うの…?
どうして……そういう考えになるの?
私は別に、無理して記憶を思い出したいとは思わない。
現に今日まで赤井さんに会った事を忘れていたくらいだし…。
こんな事を言う零くんは……
わたしの好きな零くんじゃない……。
『私はただ…零くんに人を殺めてほしくないだけだよ…
あなたはたくさんの人の命を守る為に警察官になったんでしょ?
なのに復讐なんかして……
命を奪おうとするなんて間違ってるよ…。』
自分が思っていることを言葉にしたら涙が溢れてきた。
涙はポタポタと垂れ、服にシミを作っていって
それを見た零くんは私に手を伸ばしてきたが
私は反射的にその手を払ってしまった。
「美緒……。」
払い除けてしまったことを申し訳なく思ったが
今は彼に触れられたくない…。
大好きな人のはずなのに、私はそんなことを思ってしまった。
『…赤井さんに会った事、隠してたわけじゃないの。
ただ本当に忘れてただけ…
私は覚えてない記憶なんてどうでもいい。
思い出そうとなんて考えてなかった…。
私はいつも、零くんのことばかり考えてるから
昔の記憶がどうとか、そんなの気にならないくらい幸せだったんだよ!』
声を荒げて伝えると
零くんは驚いた顔をして、すぐに悲しい顔に変わった。
彼のそんな顔を見たくなくて
わたしは黙って車を降り、家まで歩いて帰った。
停車していた公園は、私のアパートのすぐ近くなのは分かってたから、歩いて帰れる距離だった。