第75章 幸甚
焦りの色が見えていた林さんの表情が
苦虫を潰したような険しいものへと変わっていき…
林「クソッ…!」
言い逃れ出来ない証拠を突きつけられた彼は
風見さんがいる扉とは、反対の扉へ向かって駆け出した。
…まずい、逃げられる、と焦ったが
林が扉の前にたどり着いた途端、
一本の杖が出入り口を塞いだ。
「兵は詭道なり」
蘭「大和警部…!」
…蘭ちゃんの驚いた声を聞いて、みんなを見渡すと
どうやら、私やコナンくん、上原刑事以外は
大和警部は死んだと聞かされていたのが
みんなの表情から推測することができた。
私の隣にいる諸伏警部も…
驚愕に目を見張っている状態だった。
大「…こういう時はそう言うんだろ?
なぁ、高明。」
諸伏「…。えぇ、戦いの基本は敵を欺くこと。
孫子の言葉ですね。」
愕然としていた諸伏警部は
大和警部に声をかけられると、すぐに我に返り
安堵し…、そして、大和警部が生きていることに
心から喜んでいるような表情だった。
そんな諸伏警部を微笑みながら見ていると
大和警部は、目の前にいる林に声をかけていた。
林「お前が起こした雪崩を見た時、
そこで俺はハッキリと思い出した。
10ヶ月前のあの時、俺が一体誰を目撃したのか…」
上「大和警部が生きているとバレれば
また命を狙われ、周りの人にも危害が及ぶ。」
諸「だから林警部補を逮捕するまで
死んだことにしたーー、と?」
『…はい、その通りです。』
…私に向けられた諸伏警部の視線がなんか鋭い。
確かに、残酷な嘘をついて申し訳なかったけど
犯人を炙り出す為には仕方のないことだった。
…そうしないと、上原刑事の言うように
周りの人が危険な目に遭う可能性もあったんだから。
上「十ヶ月前のあの時、大和警部が目撃したのは
林警部補、あなたね。」
大「その時お前は、あの車のデカいアンテナを広げていたな?」
越「移動観測車を…?」
大「答えろ林!!
10ヶ月前、未宝岳で何をしていた!!」
漸く、風見さんから聞いていた話を全て理解した私は、彼らの様子を見ていた検事に目を向けた。
そして、そんな私の視線に気付いた彼も
私に目配せした後、足音を立てて座席の間を歩き出した。