第19章 再び
夕暮れが迫り、空はうっすら朱色に染まっている。
アカデミーの校庭からは、下校する生徒たちの元気な声が聞こえる。
「ナズナ先生、さよなら~」
「うん。気を付けて帰るのよ」
駆けていく生徒たちを見送りながら、私は職員室へと向かった。
今日の最大の懸念事項だった、幻術の授業は無事に終わり、二人ほど残して皆上手く解術出来てほっとしている。その二人も、先に術を解いたクラスメイトに肩を叩かれて、幻術から覚めた。
今回は幻術がどんなものか、かかるとどんな状態になるのかを体験するのに丁度いい強度で、かけられた女子生徒の一人は「たくさんの狐が自分を取り囲むように追いかけていた」と話していた。
私の幻術には、九尾のイメージが色濃く反映しているらしい。それも、今は可愛いものになっているようだった。
*
カラリと職員室の扉を開けると、まだ数人の教師が事務作業に追われていた。
まだ作業中のくノ一教室担当の女性教師の隣に腰掛ける。ふっと左手を見ると、机の端にある小さな花瓶に鈴蘭が活けてあり、優しく甘い香りが漂っていた。彼女はくノ一教室で、生け花などの教養と、野草の効能を中心に教えている。
彼女が顔を上げ、こちらを見た。
「ああ、ナズナ先生。お疲れ様。もう教室に生徒は残ってなかった?」
「はい。今日は居残りの生徒もいませんから、皆帰りましたよ」
「ありがとう。時々聞きたいことがあるとか、もうちょっと術の練習していきたいとか残る子がいるからね。よく見ておかないと」
「ふふ、熱心なのはいいんですけどね」
困り顔で頬杖をつく彼女を見て、私は同調するように微笑んだ。
実際よくよく注意しないと、たまに面白がってアカデミーに泊まり込もうとする子もいるのだ。建物の中には重要書類も保管してあるから、安易に許可は出来ない。そのため、見回りをしている。