第1章 カナリア色に愛を込めて
“フレンは太陽みたい”
黙々と執務をこなす彼女が急に脈絡もないことを言うものだから、僕は言葉に窮した。
「太陽、というのは…?」
「そこ。窓際立ってると反射して、眩しい。」
そういうことか、と思いつつゆっくりと窓から離れる。なるほど今日は雲一つない晴天のようだ。
「昔、」
彼女の言葉に耳を傾けながら、空いている椅子に腰を掛ける。
「昔、見た絵本を思い出す」
「絵本…?」
「たくさん努力したんだけど報われずに死んだ女の子を可哀想に思った天使が、彼女を女神に転生させるおはなし」
「なんだか、ずいぶんと無理のある話だね」
「絵本ってそういうものでしょ。でも私まだこの絵本が好き」
リアリストなのかロマンティストなのか…よくわからない。言動が矛盾している。
「私のところにも来てくれるかな、天使」
「きっと来るよ、君はとても努力家だから」
「だといいな~。あ、でも」
“フレンって天使みたいだね”
と、また不可解なことを言う彼女に僕は少し不服そうな顔をしておいた。
天使みたいだね、なんて成人男性に使う表現ではないと思うのだが。
「ほら、髪の毛。太陽に反射してわっかが出来てる。だから天使」
「そんなの、僕でなくとも君にも、むしろ髪があれば誰にでも出来るだろう」
「違うの、フレンだけ。私の天使は」
「は…」
「フレンが私の幸福の天使なのかもね~」
へら、と笑い、冗談なのか本気なのかわかりかねることを言ってから彼女は再び机に目を落とした。
静寂を取り戻した執務室で、僕はなんとなく顔の火照りを感じたが、春の日差しのせいにして、彼女の執務を手伝うことにした。