第3章 真の風
20XX年、8月20日。4:50。
マスコミ達が海運の明石造船所に集まっていた。日の出まであと30分はあるのに黙々と作業する船員達を、記者の北東西 南は眺めた。
《号外!あの天下の七海財閥の御曹司とのご令嬢が婚約!まさかの帆船航海!?》
三日前の記者会見を元に各種メディアが大騒ぎした。南の担当は週刊誌。格闘家の獅子王司にインタビュー出来た時は相当な喜びを感じた。取材では普通は出逢えない色んな人と知り合える。のは、いいが。記者会見を思い出して南はペンを持つ手をギリイッ!と握り締めた。
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「よく来たな貴様ら!?俺の許嫁はこの美女だ!女は皆美女だがこのは飛びきりだ!!」
龍水が叫びバッシィィイン!!と指鳴らし。南は咄嗟に獅子王司を思い浮かべ怒りを沈めた。皆美女、って普通許嫁を横にして言うか?と。隣で苦笑いするがどうどう、と落ち着かせている。南は手持ちの手帳に挟まれた1枚の写真を見遣る。
【】
18歳で一等航海士として活躍する少女だ。セーラー服で敬礼する姿はなかなかに格好良い。家は廻船問屋として関西を拠点に活躍した家柄だ。多方面に勢力拡大した七海財閥と違い、海運・教育・不動産に絞り、海外拠点の数は此方が圧倒する。
「龍水君。取り敢えず資料配ろうか」
「何故だ?資料なぞ俺は用意してないぞ。口頭で良いだろう」
良くないから!とペンを折りかける南。もはや司パワーでも怒りを抑えきれない。
「記者会見では事前に発表内容を配るんだ。記者の人達は固有名詞の聞き間違いとかに気を付けないといけないからね。付き合う相手の文化を尊重するのも、『船長』としてこれから皆を率いるのなら必要だ」
「成程、確かに貴様の言う通りだ。無粋な真似をした!」
がスマートに理由を述べつつ宥めた。横に控える自身の兄でグループCEOに資料を!と指示を出す。皆様、大変失礼しましたと謝罪を述べた。この手際にはほう、と記者達が感心する。