第33章 歪んだ愛で抱かれる 後編 【三成】R18/ヤンデレ
三成ははっと我に返った。
(…今まで何をしていた?)
辺りを見回すと、そこは自分の居館の廊下。
たった一人で立っている。
そこでようやく、腕に名無しを抱えていることに気づいて驚き、目を見開いた。
「…名無し様っ?!…」
彼女は瞼を閉じて動かない。
焦りながら彼女の胸に耳を寄せ心臓の音を確かめると規則正しくて、すやすや眠っているように呼吸も表情も穏やか。
ひとまず安堵した。
三成はぎゅっと目を閉じ記憶をたどる。
(どうやって…?どうやって奪い返した?)
蘭丸に先を越されて名無しを連れ去られ、激昂のあまり暴れだしそうな心を何とか抑えこみながら、居場所をつきとめ襲撃したはず。
そこから今に至る状況が何故かまったく思い出せない。
(まさか…)
軍師として如何なる時も冷静なはずの自分が、我を忘れるなんて。
あり得ないことが起きてゾクッと身震いする。
名無しはどうしたのだろうか?
三成の姿を見てホッと気が緩み昏倒したのか。
……いや、おそらくそれはない。
きっと、襲撃の混乱のさなかで精神的な衝撃のあまり失神してしまったのだろう。
あるいは…
自分は拒絶されたのかもしれない。
まさか、そのことに逆上して名無しの意識を失わせて無理やり連れてきたのか?
恋に狂い我を忘れてしまい、何をしたのかもわからない…
そんな自分が怖かった。
一体、彼女に何をしたのか?
怖い思いをさせたのだろうか?
冷たく嫌な汗が全身に浮かぶ。
確実な記憶で不安を払拭しようと気が急くものの、まったく思い出せなかった。
(ああ…だけど…名無し様は…)
腕の中の無防備な彼女は美しかった。
この世で一番、あらためてそう思った。
温もりも、柔らかな感触も重みも、三成が狂おしいほど求めてやまなかったもの。
とにかく二度と離すまいと、抱いている腕に力をこめた。