第29章 五色の夜 春日山城編4 【義元】R18
その夜は、何だかやわらかい夜だった。
暗闇は少しだけ白を混ぜたようにソフトな色合いで、寒さが緩んだ空気は温度も湿度も肌に優しい。
どうしよう、とりあえず行かなきゃだよね。
義元さんの部屋…。
私はうつむき、迷いながら廊下を進んでいく。
中庭を通る時にふと目を向けると、先日の強風で倒れた木が撤去されたあとに、何か別の若木が植えられていた。
やがて義元さんの部屋の前に着いてしまったけれど、しばらく襖の前で考えあぐねる。
『名無し、3日後の夜は空いてる?見せたいものがあるんだ』
義元さんにそう声をかけられたのは、果たして夜のお誘いだったの?
それとも、言葉通りで単に見せたいものがあるだけ?
戦国ライフ初心者の私にはわからないよ…。
襖に額をつけて床の木目を見つめながら悩んでいると、
「名無し、待たせてごめんね」
突然、廊下の向こう側から声がして、当の義元さんが姿を現し、驚いた私の肩はビクンと上下した。
足音をほとんどたてず、優雅に袖をなびかせながら、スーッと近づいてくる。
「ちょうどいい縄がなかなか調達できなくて」
「縄?」
義元さんが手にしていたのはきれいに編まれた縄。
それもそこそこ太くて強度がありそう。
何に使うの?
「ちょっとごめんね」
次の瞬間、両手首を掴まれて上げさせられる。
そして、その縄が腰にぐるりと回された。
「な、何ですか?」
戸惑う私にかまわず、義元さんは手際よく結び目を作っていく。
縛られた!
どういうこと?これじゃ逃げられない。
「義元さん、これは…?」
おずおずと見上げると、
「ふふ」
義元さんの顔に、見るものすべてを虜にする艷やかな笑みが浮かんだ。
「気をつけてね。ゆっくりでいいから」
家屋に立てかけられたハシゴを登っていく私。
先に上がった義元さんに手を引かれ、ふわりと屋根の上に引きあげられた。
「大丈夫?」
「あ…あの…私…高いところ苦手で…」
平屋建てなのでそこまで高所ではないけれど、それでも下を見ると怖くなり足が震えた。
「そうか…ごめんね。安心して、と言っても無理かもしれないけど、俺は絶対に君を落としたりはしないよ。これがあるし」
義元さんが手にした縄。