第5章 五色の夜 安土城編4 【光秀】
その日は荒れ狂う嵐。
叩きつけるようなどしゃぶりの雨。
こんな夜に呼び出すなんて‥‥。
気が重いけど光秀さんの部屋に向かった。
光秀さんとは夜を一緒に過ごした事はあるものの、
実は身体を合わせたりはしていない。
緊張している様子を散々からかわれ、なんだかんだでそのまま眠ってしまった。
それから今日まで光秀さんは長期不在。
今夜はどうなのだろう‥‥。
「‥‥‥‥し、失礼します」
光秀さんは書簡から目をあげた。
「おや、まさか本当にノコノコやって来るとはな」
「呼び出したのは光秀さんじゃないですか。もう帰りますね!」
「待て。冗談だ。俺のような繊細な人間は、時に壮絶な極秘任務で至極魂をすり減らす。お前をいじめて人間らしさを取り戻そうと思ってな」
「光秀さんのどこが繊細なんですか。それに、なぜ私をいじめると人間らしさを取り戻せるんです?」
「まあ、そう怒るな。それにしても間抜けな顔は怒ったところでちっとも怖くない。余計に間抜けになるだけだな」
「相変わらず失礼ですね」
光秀さんの形の良い唇に薄く笑みが浮かぶ。
「で、お前は何しにきた?」
「だから、光秀さんに呼び出されたから」
「何をされると思って来た?」
「それは‥‥」
「顔が赤くなったな。何を考えてる?言ってやろうか?」
「な、何も考えてません!‥‥」
その時、障子の外がピカッと光り、
ズガガガ!!!ドォーン!!!
地響きと共に凄まじい雷鳴が響いた。
現代では聞いた事のないような凄まじい轟音。
爆撃されたのかってぐらい。
怖い‥‥!
「きゃああああっっ!!」
私は悲鳴を上げて思わず座り込んだ。
激しさを増す雨音も不気味に迫り来るようで、恐怖心を更にあおる。
「‥‥‥‥」
光秀さんは机に頬杖をついて私の様子を眺めている。
全然、雷に動揺していない。
「きょ‥‥今日は‥‥こんな天気なので帰ります!」
立ち上がり襖へと一歩踏み出した時、鋭い稲光にカッと照らされる。
そして
ズガガガガ…!!!!
ドォーン!ドォーン!ドォーン!!
「きゃああああーっっ!!」
さっきよりも大きく響く雷鳴に、私は再び座り込んだ。