第20章 艷やかな酩酊 【政宗】R18
その夜は、政宗が近隣の大名を招き饗宴が催されていた。
料理好きな政宗は、本格的な饗応料理を自ら用意して振る舞う。
鶴のつみれ汁
鯛の身と卵の煮物
まながつおの刺身
たこの焼物
雉の焼き鳥
鮒ずし
豪華な料理が次々と提供される。
室内の調度品も見事なもので、出席した大名たちを大いに楽しませた。
調理場と広間を行き来する政宗。
妥協せず料理の出来を確認し、更に全ての大名たちそれぞれに気の利いた声がけをして場を盛り上げる。
(やっぱり政宗は凄いな…。武将としても料理人としても教養人としても、超一流…)
織田家ゆかりの姫として出席していた名無しは、恋人に羨望の眼差しを送る。
何より政宗には華と色気があり、名無しは見つめるだけでドキドキさせられてしまう。
そして人を惹きつけるオーラがある。
(それに比べて私は…)
後世に名を残す武将である政宗の凄さなど、もちろん現代にいた頃から充分わかっている。
それを実際に数々の場面で目の当たりにしてきて、何も無い自分が恥ずかしく、彼には釣り合わない、そんな風に思えてならない。
その日の出席者は面識の無い人達ばかり。
アウェー感や不安から思考が後ろ向きになっていた。
(こんなネガティブ思考…やめよう!)
頭の中のモヤモヤを振り払おうと、名無しは盃の酒をあおった。
宴は和やかに進む。
(織田家ゆかりの姫としてのふるまいをしないと…)
名無しは近くの席の大名たちと、緊張しながら何とか会話をする。
酒を勧められた時は断らずに盃を空けていた。
「名無し、大丈夫か?断ってもいいんだぞ」
もてなしの合間に様子を見に来た政宗が心配する。
「大丈夫。私、お酒に強いの」
確かに顔色ひとつ変わっていなかった。
こう見えて、いわゆるザルなのだろうか?
政宗は気にしつつも、次の料理確認の為に調理場に戻った。
無事に宴が終わって客を見送り、ホッと一息ついた政宗。
「名無し、悪かったな、一人にして。大丈夫か?」
「…眠い‥‥」
名無しが突然、政宗の肩にもたれかかる。
「え?」
ふらつく身体を、慌てて政宗は両腕で支えた。