第5章 愛の月読【うちはイタチ中編】
私の初恋はアカデミーの頃だ。その人は、誰よりも目立っていたけど、誰よりも静かな人だった。癖のない綺麗な黒髪を束ねる姿はどこか女性を連想させられるが、忍術、体術、座学、何をとってもずば抜けていた彼はやっぱり格好良くて、憧れを抱いていた。
うちはイタチ。それが、私の初恋の相手だった。
他の女子も考えることは同じで、少しでもイタチに近づこうとお昼休みに話しかけたり、放課後に勉強を教えてもらおうと声をかけたり、
しかしイタチはどんな誘いにも流されることなく、ただ一人、何かに向かって精進しているようだった。
近寄りがたい雰囲気を放っているものの、アカデミーのお迎えに来たのであろう弟への眼差しはすごく優しくて、彼への印象が崩れたきっかけとなった。
早く下忍になりたいね!と目の前の小さな目標を掲げている周りの子達と比べると、うちはイタチという生徒は異質な存在だった。
一人だけ違う世界を見ているようだった。同じうちは一族なのに、まるで分からなかった。
どんな世界を見ているのだろうか。触れることのできない彼の内側に私は徐々に惹かれていった。
そんなある日。終末の谷の戦いについて担任が熱く語っていた時があった。
担任は忍のことを”争いの中で生きる者”であると言った。今自分たちが高めている忍術も、体術も、木の葉の里のために、争いの中で生き残るために、必要な力である。だから私たちは常に精進しなくていけないのだと。
「……」
ごもっともだと思った。だけど、常に争いが起きているていで話をしているのが少し悲しく思えた。
イタチはどう思ったのだろうか。チラッと斜め右にいる彼の様子を伺えば、相変わらず何を考えているのかわからなくて、でもきっと彼も担任と同じことを思っているのだと思った。
争いに対して恐怖や否定的な感情を持つ私を、きっとイタチは”甘い考え”であると言うのだろうか。
その日の放課後、先生の手伝いをするために遅くまでアカデミーに残っていた。もう帰っていいよ今日はありがとう、と言われたので一礼をし、職員室を出る。荷物をとりに教室に戻れば、そこには何故かイタチの姿があった。