第1章 いちごたると
*** side Toge
苺タルトと目が合ったーー。
彼女のものだと、ひと目で理解出来るのは自分だけだろう。
たかがケーキ。瞳を輝かせてわくわくと箱を見る私がなんだか可愛くて。
ほんの少し声を掛けてみれば、真っ赤になって顔を背ける。ちょっとした悪戯心と下心で近付けば、いつものように動揺していた。
恥ずかしそうに笑って。棘だけに見せてくれるその顔がーー。
とは言え、ひとりで席に着く雪を目で追っていたから今ここにいるのも事実だった。
4人掛けのテーブルにひとつだけの皿。
ちらと顔を上げれば、いつも彼女の隣にいる野薔薇は少し離れた席で真希と座っていた。パンダもそこに引っ張られているようだった。
たぶん、そう言う事。
それならそれでも構わないけれど。
小さく食器の音を立てて机に自分の皿を置いた。
向かい側ではなくて、苺タルトの隣に並べたショートケーキ。
「狗巻先輩、雪とホント仲いいっスね」
後ろにいた悠二が棘を覗く。
「ツナ?」
振り向いて見れば、悠二の手元の皿にはちゃっかりケーキが2個乗っている。何故。
その向こう側に恵もいる。
「その……雪と、付き合ってるんですか?」
言われて僅かに目を見開いた。
悠二は何だかわくわくしたようにこちらを見ている。恵がオイと小さく悠二を嗜めた。
真っ直ぐで素直な後輩と、こちらに気を使う後輩ふたりに他意はないのだろうと思う。
…けれど。大概に自分も嫉妬深いな、と感じる。彼女の同級生は、俺よりも一緒に居る時間は確実に長いのだろう。
「おかか」
棘はテーブルに背を向けて、後輩たちに向き直った。
「高菜。いくら、ツナマヨ」
“ これから付き合う予定だから ”
「おかか」
“ あげない ”
End***