第1章 ~色が生まれる世界~
早朝
薄いカーテンに朝日がさす
ゆっくり瞳が開く
小さく響く目覚まし時計を制止する左手
ふぅっと息を吐くと
今日も生きてしまってることを実感する
「まぁ…そんなこと言ったらまた利佳さんに怒られちゃうな」
上体を起こしながらつぶやいた言葉は生活感のない部屋に広がり
誰の耳に届くこともなく消え失せる
何もない、なんてことない
あの人がいない朝がやっと安心できるものに感じれるようになった
それまでベースの弦を何度替えたことか
母の写真のある棚に座り込む
「母さんおはよう。今日も生きるよ」
毎朝の儀式のようなもの
僕が死なないようにするための大切な挨拶
これをしてから少しは心が軽くなった
朝の準備を済ませてベースとカバンを持ち家を出る
「あら、おはよう鹿瀬くん!今日もいい天気ねぇー」
アパートの前で大家さんが掃除をしている
いつもの風景だが
「っっ…おはようございます…いってきます」
少し詰まってしまったが何とか挨拶できた
まだ年上の女性には恐怖心を感じてしまう
ぐっと下唇を噛み締め歩みを進める
通学路には親友の家の前を通る
そこで合流してバスに乗り学校へ
早く親友の家に行かなくては…
「そろそろアヤが来るから切るよー?…はーい!お仕事がんばってねー!」
彼女が陽気に電話をしながらマンションの外にいた
僕と目が合うと満面の笑みを浮かべ大きく手を振る
僕の幼馴染で命の恩人。木江雛子。僕はヒナって呼んでいる
ヒナはパンパンになったクリアファイルを大事そうに抱え
僕に近づいていつものハイタッチ
「おはよう!アヤ!いつも通りの時間だね~」
「おはよう。まあ僕は規則正しくがモットーだからねー
ところで、そのパンパンのファイルは…?」
ヒナは得意げにふふん!と胸を張り、僕にファイルを手渡す
新しい曲の考案で打ち込んでいたのだろう
それにしても量がすごい
「また徹夜ー?目の下に熊なんか作ったらヒナの想い人にちくるからな?」
「ぐえぇ!!それはやめて―!おねがーい!」
ヒナの想い人とはバレーボール部の東峰旭という
一つ上の学年らしい。
僕とは違って明るくてしっかりしてて
ヒナはきっとその人と結ばれると思う
一番近くで見ていたから僕にはわかってる
僕とは違う、と