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キラキラ星

第4章 抑止力




『最終的な損失の額が減価償却費より大きくなっております。さらに、現金預金も減少している為…』


私が責務を果たしている間、了は欠伸をしながら窓の外をぼんやりと眺めていた。
相手の社長は、呑気なうちの副社長と相反して、冷や汗が止まらない様子だ。


『さらに、自己資本も減少傾向にあるご様子。ですが、結果的には赤字計上になっていない。以上の点から、うちの副社長は利益の水増しを疑ったというわけです』

「残念だったね?運がなかったね?愚鈍な兄なら、こんな穴だらけの財務諸表でも、騙せたかもしれないのに!あ、ちなみに、この表を税務署に提出するのはあまりお勧めしないなぁ。多分バレるから」

「……」

「何も言わなくなっちゃった。つまらないな。、帰るよ」


私は手早くテーブルに広げた資料を鞄に詰め、既に歩き始めていた了を追う。
部屋を出る直前、彼は意気消沈の男を振り返った。


「そうだ。君の会社がピンチだって気付いたのは、数字だけじゃないよ。参考までに教えてあげる。
まずは、役員が何人も会社を離れただろう?役員という生き物は、経営状況に敏感だ。まるで嵐を察知した鳥みたいに、迅速に去って行く。
あとは、君自身。君さぁ、社長のくせに最近ほとんど会社に居なかったでしょ?駄目だよ?頭があっちこっち奔走してちゃ!周りに、うちの会社、首が回らなくて大変なんですーって知らせちゃってるようなもんだからね」


スイッチの入った了は、よく喋る。さっきまでは、口を開くのが面倒だといわんばかりだったのに。


「最後に。僕の中で決定打となったのは、さっき出された珈琲だ」

「…こー、ひー…?」

「泥水みたいな味だったよ!会社の品位と珈琲の味は比例する!あ、これ僕の持論ね!次からは気を付けた方が良い。ま、今さら豆を高級なものに変えたところで、手遅れだろうけどね!
じゃあ、さようなら!立て直し、頑張ってね?相談にも乗らないし、お金も貸してあげないけど!」


了は腹を抱え、相手を嘲笑いながら会議室を後にした。

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