第8章 思惑
「いつ了さんが暴走するか、爆発するかってずっと心配だった。でも、ちゃんが隣にいれば…
そんな未来はやって来ないのかも。
オレがこんなことお願いするのも、おかしな話かもしれないけどさ。了さんの近くに、いてあげて欲しい。ストッパーでも、精神安定剤でも、ただ好きだからって理由でもいい。
だから、あの人がどんな時も 離れずにいてあげて欲しいな」
ここに、居るではないか。
了のことを、本当の意味で見てくれてる人間が。
「あ!ごめん、なんか勝手に語っちゃって…!オレなんかに言われるまでもないって感じだよね!」
『いえ。百さんのお言葉に、私は勇気をもらいました。私が隣に存在しているだけで、あの人の心が少しでも軽くなるのなら…
私は、彼の側にいようと思います。ずっと』
私は、深々と頭を下げる。少し間を置いてから顔を上げると、百は困ったように笑った。
「…うん。多分、それが正解!」
今度は彼らしい、飛び切りの笑顔を浮かべそう言った。それからほとんど間を置かず、あ そうだ!と何かを思い付いた様子。
くるくるよく回る表情だと私が見つめていると、彼は懐からメモ用紙を取り出してペンを走らせる。そこには、すぐに数字がいくつか並んだ。
「ちゃんが了さんの近くにいるのは大賛成だけど、でもほら…あの人、ちょっと歪んでるところがあるでしょ?もし暴れ出したりして、ちゃんでも止められなくなったらここに連絡し」
私は差し出されたメモを、彼の手と一緒にやんわりと押し戻した。
『お気遣い、ありがとうございます。でも大丈夫です。
私は、そういう少し歪んだところも含めて…彼のことを、愛していますから』
「!!
…あはは!うん、そっか!分かったよ。でさ、いま気付いたんだけど…ちゃんも結構、歪んでるね!」
『恐縮です』
「うーん。ギリギリ会話は成り立ってる、かな?」
別れ際、彼は最後にこう言い残した。
ありがとう。よろしく。と。
そして “ まさか自分が、了さんのことを羨ましいと思う日が来るなんて思ってもみなかったよ ” と。
そう告げた彼の笑顔は、私が直視するには少し眩しかった。