第8章 思惑
— 思惑 —
その後、私は了の命令で百を自宅まで送ることになった。結局、私が一滴足りとも酒を飲んでいないことを了は把握していたらしい。
百は迷うことなく助手席に座った。後部座席に行くものだと思っていたので少し驚いたが、その人懐っこい笑顔に絆される。きっと彼は、天性の人たらしなのだと感じた。
「えっと…さっきは、オレが変なこと言ったせいであんなことになっちゃって、ゴメンね」
『いえ。こちらこそ、お見苦しいところをお見せしてしまいました』
すっかり酔いも醒めてしまったらしい百。それはそうだろう。あんなシーンを強制的に見せられては、誰だってそうなる。
しかし彼は、嫌な顔ひとつしない。それどころか私に謝罪の言葉を再度重ね、屈託のない太陽みたいな笑顔でこちらを気遣ってくれた。
私は、また考えてしまう。
彼のような人が、了の友達になってくれたら良い。百が側にいてくれれば、きっと了は幸せになれる。しかし…。どうしたって、百の方に何の思惑がないとは思えない。
『百さん。ひとつ、お訊きしても良いですか』
「ひとつと言わずいくらでもどうぞ!モモちゃん何でも答えちゃう」
『百さんは、どうして副社長と関わり合いになっておられるのですか』
「え?だって了さん、超面白いじゃん!一緒にいて退屈しないし、趣味も合う!あんな人と友達になれるなんて、ミラクルハッピーって感じ!」
心底楽しそうな声が、助手席から返ってきた。その答えは、まさに私が望んでいた言葉そのもの。しかし…
軽いのだ。彼の言葉は。
赤信号で停車した車。私はハンドルに手を掛けたまま、隣の男の顔をじっと覗き込んだ。すると百の眩しかった笑顔は陰り、すっと真顔になる。
「……なんて。
なんだろうね…。ちゃんには、了さんに関する嘘は通用しないんだなって、直感で分かっちゃうよ」